光が死んだ夏 あらすじ完全版｜モクモクれんが描く「もう一人の光」との物語

『光が死んだ夏』は、モクモクれんが描く青春×ホラーの傑作であり、「もう一人の光」と生きる少年の葛藤が読む者の心を揺さぶります。

この作品のあらすじを“完全版”で知りたい人は多く、物語の展開やキャラの心情、さらには“ノウヌキ様”や“ケガレ”といった神秘的な存在との関係性を深く理解したいと感じているはずです。

この記事では、『光が死んだ夏』の物語全体を網羅的に解説し、「もう一人の光」との出会いがもたらす感情の揺らぎに迫ります。

「光が死んだ夏」の物語構造と世界観

この章では、『光が死んだ夏』という物語が持つ“構造の歪さ”と“世界観の異物感”を丁寧に解剖していきます。

ただの田舎×ホラーではない──そこに編み込まれているのは、“日常”と“異常”が共存する構造的恐怖。

それは、青春の中に潜む孤独感や、親しさの中にひそむ正体不明の不安を、物語そのものが“構造”として演出しているからにほかなりません。

閉鎖的な田舎と少年たちの夏

舞台は、三重の山奥にある静かな村。

スマホの電波も途切れがちで、バスは1日に数本しか来ないような、時間が止まったような場所。

この「閉鎖された空間」は、物語全体に“逃げ場のなさ”という無意識の圧をかけてきます。

人の目が常にある。噂はすぐに広まり、他者との距離は異様に近い。

そんな「逃げられない場所」で起こる“入れ替わり”の事件だからこそ、怖さが倍増するんですよね。

“光”の死と、“もう一人の光”の登場

一週間、山に消えた光。──そして帰ってきた彼は「何かが違う」。

でも、見た目も声も性格も、ほとんど“光そのまま”に思える。

この違和感が、「恐怖」じゃなくて「不安」として染み込んでくる感じ、本作特有の“静かに狂わせる系”の構造美だと思います。

なにせ、よしき自身が“光じゃない”と気づいたうえで「それでも一緒にいたい」と思ってしまうから。

偽物と本物のあいだで揺れる心情こそが、この物語を“ホラー”ではなく“感情劇”へと昇華させているんです。

そしてこの構造が、読者自身にも問いかけてくる。

──「あなたは、どこまでを“人”と呼べる？」と。

“もう一人の光”の正体とよしきの選択

物語が静かに狂い始めるのは、よしきの「選択」が異常を“受け入れる”ことで日常を維持しようとした瞬間からです。

「これは光じゃない」と気づいていながら、目を逸らすように“光として”振る舞う存在と過ごすことを選ぶ。

この選択が、少年の精神を少しずつ“日常”から引き離していく静かな毒になっていくのです。

見た目は同じ、でも中身が違う存在

ヒカルは確かに光の顔をして、光の声で話し、光の癖をなぞって動きます。

でも――“中身”が決定的に違う。

それを最初に察知したのが、よしきだった。

「こいつ、光じゃない」──その感覚は突拍子もないものではなく、肌で感じるレベルの確信だった。

でも恐ろしいのは、そのあとです。

よしきは、怖れながらも「それでも構わない」と心の中で受け入れてしまう。

この選択が、少年の心に“穴”を空けてしまうのです。

よしきの「受け入れる」という歪んだ優しさ

「光じゃないのは分かってるけど、一緒にいたい」

この歪み切った感情こそが、よしきの抱えた“優しさ”の異形です。

普通なら突き放すべき存在を、よしきは守ろうとする。

“光”の姿で泣きじゃくるその存在を前に、殺意よりも哀しみが勝ってしまった。

つまりこれは、少年が「正しさ」よりも「一緒にいたい」を選んでしまった物語なんです。

その感情の揺れこそが、本作をただのホラーではなく、“青春×異形”の感情劇として際立たせている要素だと思います。

だからこそ、読み手の心も揺さぶられる。

──「たとえ本物じゃなくても、そばにいたいと思ってしまったらどうする？」と。

ノウヌキ様・ケガレ──村に巣食う闇

この物語の“異常さ”が表層から内側へと染み出すように広がっていくきっかけ──それが、「ノウヌキ様」や「ケガレ」といった存在の出現です。

ただの妖怪ではない、ただの呪いでもない。この世界の“秩序のゆがみ”そのものとして彼らは描かれます。

異界と現実の境界線が溶け出すような、じわじわとくる恐怖。──それがこの章の主題です。

“ノウヌキ様”の正体と村の儀式

「ノウヌキ様」という名前は、村の老女・松浦が錯乱状態で口にした言葉でした。

「あれはノウヌキ様や。山から下りてきとる」と。

その直後、彼女は突然の変死を遂げる。

“ノウヌキ”とはつまり、“中身が抜けた者”。──人の形をしていながら、人であることをやめた存在。

作中では明言されていないものの、かつて村が信仰していた神──“守り神”としてのノウヌキ様が、ある飢饉を境に“祟り神”へと変質したと語られます。

この神の転化現象は、「人が信じることで神は神でいられる」という民俗信仰そのものでもあります。

そしてその崇拝のために行われていたのが、村人による「封印の儀式」。

結界・呪具・封印された穴──その一つひとつが、村全体を“異界との境目”として機能させていた。

つまり村は、すでにずっと前から「異界」と共存していたわけです。

人を狂わせる“ケガレ”の実態

もう一つの異常、それが「ケガレ」です。

作中では、“ナニカ”に汚染された空気や空間、もしくは精神状態に潜む何か──という形で描かれます。

ケガレに感染した人間は、異常行動を取るようになる。

「目が合ったら発狂する」、「口を利かずにただ壁に頭を打ち続ける」、「突然、自ら命を絶つ」…。

それらの現象は、説明がつかない不気味さで日常を浸食していきます。

つまり、“ケガレ”とは人間の“内側”を蝕むもの。

ホラーでありながら、心理描写に強く結びついているからこそ、本作はただの“脅かし”ではなく、“心に侵食してくる”ホラーになっているんです。

そして、この「村に巣食う闇」は、よしき自身の内面にもつながっていく──。

自分の中にある“認めたくない何か”に気づいたとき、人はどうするのか？

──『光が死んだ夏』の恐怖は、すべてその問いかけの上に成り立っているんです。

物語の転機とふたりの関係の変化

『光が死んだ夏』がただの“ホラー”や“青春譚”に留まらないのは、この章に集約されています。

「好き」でも「怖い」でもない、“理解できないけど離れられない感情”。

その正体不明の絆が、ふたりを結びつけながらも、どこか歪んだ方向へ進ませてしまう。

この関係の揺れ動きこそが、本作にしかない“痛み”と“優しさ”を生み出しているのです。

“殺してくれ”と願うヒカル

夜の集会、友人たちとの泊まり。

笑い声の裏に、張り詰めた緊張が走る。

光に似たヒカルが、朝子に正体を見破られかけた瞬間、事態は臨界点へ。

暴走しそうになるヒカルを、よしきは包丁で刺す。

でも、死なない。人ではないから。

絶望に沈むそのとき、ヒカルが「自分を殺してくれ」と口にする。

それはただの懺悔ではなく、存在を許されたことへの“お返し”だった。

自分が“光ではない”ことを理解した上で、それでもそばにいてくれたよしきへの、最も痛ましい「ありがとう」だったのです。

自分の半分を差し出す決断

ヒカルは、自らの“半分”をよしきに分け与えることで、「殺せる存在」へと自分を変える。

これは本作最大のエモーショナルなシーンのひとつ。

つまり、“無敵”という存在的特権を、自ら手放すという決断です。

なぜそんなことができたのか？──それは、“殺されてもいい相手”に出会えたから。

言い換えれば、「殺されたいほどに大切な存在」を得てしまったとも言える。

ふたりの関係性はこの瞬間から、“人とナニカ”という図式を越え、生きる理由と死ぬ理由が重なるような、深く危うい絆へと変質していきます。

それはもはや、友情でも愛情でもなく──ただの「理解」なのかもしれない。

誰よりも深く「お前を知っている」と言える相手と、共に在り続けるという選択。

この選択が、次の“異界との対峙”に繋がっていくのです。

封印・異界・穴──世界の崩壊を止められるか

『光が死んだ夏』という物語が、“個人の物語”から“世界の物語”へとスケールを拡大させるのがこの章です。

閉ざされた村の中で起きていた異変が、やがて「この世界そのものが崩れかけている」という真実へと繋がっていく。

ふたりの関係性が深化するのと並行して、舞台そのものが終末へと向かっていく構造美は、もはや“青春ホラー”の枠を越えた濃密なドラマへと昇華されています。

穴と“あの世”の繋がりの正体

村に点在する“複数の穴”──それは、ただの地形ではありません。

それぞれが、「あの世」とこの世界を繋ぐ“ゲート”の役割を果たしていたのです。

その一つ一つが長い年月をかけて封印され、村人たちはその秘密を伝承してきた。

しかし近年の人の減少や、信仰の薄れ、封印の弱体化によって、“異界のもの”が再び漏れ出してきてしまった。

それがケガレの拡大であり、ヒカルのような存在の出現であり、村の中で起きた狂気の連鎖だった。

この「封印の緩み」は、過去から続く人間の怠慢をも象徴していると読めるのが、本作の深み。

世界が壊れはじめる原因は、“誰も悪くない小さな忘却”の積み重ねだった。

よしきとヒカルに託された“結界”の使命

「じゃあ、どうするか？」──その答えを出すのが、よしきとヒカルの役目になります。

民俗学者・田中から伝えられた「結界の再封印計画」。

それは、ふたりが“異界の穴”にアクセスし、それを閉じていく作業。

でもただの儀式ではない。

穴を閉じるには“異界と繋がれる者”──つまりヒカルのような存在が、自らを媒介として“あの世”を一時的に封じなければならない。

それは、ヒカルの命を削る行為でもある。

よしきは葛藤する。

「もう一度、大切なものを失ってしまうかもしれない」という恐怖が、彼の心を縛る。

しかしヒカルは、笑って言うんです。

「でも、俺がそれをできる存在でよかった」と。

この台詞に込められたのは、“人間ではない”という痛みと、“それでも役に立てる”という誇り。

──どこまでも孤独で、どこまでも優しい。

そして、この“優しさ”こそが、世界を繋ぎとめる最後の糸だったのです。

光が死んだ夏 あらすじ完全版｜もう一人の光との共生が意味するもの【まとめ】

『光が死んだ夏』が投げかけてくる問いは、シンプルなようでいて、とんでもなく根深い。

「本物じゃないけど、でも大切なもの」──それを、あなたはどこまで許せるか？

この問いは、作中の“偽の光”という存在に限った話じゃない。

私たちの日常にもある、“代替の絆”“欠けたままの愛情”“不完全なままの繋がり”に通じている。

この物語は、「偽物でもいいから、ここにいてほしい」と願った少年のひと夏の記録でもあり。

「正しさよりも、大切なものがある」と知ってしまった瞬間の、喪失の美学でもあるのです。

偽物と本物の間で揺れる心

よしきは、“光じゃない何か”を知りながら、一緒に過ごす選択をしました。

それは、人として正しい選択ではないかもしれない。

でも、その「間違い」が、この物語をこんなにも切なく、美しく、リアルなものにしている。

「もう一人の光」は、本物ではない。

だけど、よしきの中では、確かに“光”だった。

その“矛盾を抱えたまま誰かを愛する”という感情が、胸を焼くように刺さる。

存在を超えた絆が残した“夏”の痕

夏は、終わる季節です。

でも、その短い季節の中で育った感情は、簡単には終われない。

むしろ、永遠に心に“居残る”ものとして、私たちの中に巣食う。

ヒカルという存在は、「失われることでしか価値を証明できなかった命」かもしれない。

でも、それでもよしきと出会い、守られ、守ろうとし、“人”に近づいた。

それは、「光ではない誰か」が、確かに“誰かの光”になった瞬間でもあった。

『光が死んだ夏』は、誰しもが心の奥で抱えている「言葉にできない感情」や、「説明できない関係性」に、名前をつけてくれる物語です。

だから読者は、よしきと一緒に苦しみ、ヒカルと一緒に泣ける。

感情に住みつく物語、それが『光が死んだ夏』。

──夏が終わっても、あの“光”だけは、ずっと胸に残ってる。